『鳥の緯度 土屋秀夫句集』
「上製本でありながら、並製本のような佇まい」
「どういう作りなのだろう? と興味を惹く本」
これが、装幀家・濱崎実幸氏から今回いただいた宿題です。
濱崎氏は「造本装幀コンクール」の審査員をされており、
ご存知の方も多いと思います。これまでにも何度か、
濱崎氏が装幀された作品の製本をお受けしていますが、
毎々緊張の連続です。
今回のご依頼は、表紙クロスに選んだDNリネンと
板紙を貼り合わせ(合紙)、上製ラインでくるんだ後に
三方「切付」にしたいというもの。
切付/切付表紙とは、
表紙と中身を同時に仕上げ裁ちする、
チリのない製本様式。通常の並製本や
中綴じの仕上げ裁ちがこれにあたります。
ご依頼の仕様は、まさに
「上製本でありながら、並製本のような佇まい」です。
しかし、この製本方式では、
本来隠れるはずの「背加工が剥き出し」になる懸念、
合紙の反発による「表紙の反り」、
断裁部分から表紙の「布クロスのほつれ」が生じるリスク、
またノド部分に溝が入らず「本の開きにくさ」
が想定されます。
当社での製本実績もないことから、
印刷を担当される創栄図書印刷様(京都市)も交え、
綿密な打ち合わせを重ねました。
表紙のほつれに関しては、クロス表面に樹脂系の
塗料を塗り込む「目留め」加工を、ダイニック様で
対応いただきました。本来は大量ロットが条件の
加工なのですが、地元紙業・富屋様(長野市)が
間に立って丁寧に交渉していただいたおかげで、
加工の手筈が整いました。
背加工は、クータ・バインディングのように
「背に空間」を作ったうえで、背幅(背の角位置)と、
背から表紙側へ3mmの位置に「筋を入れる」ことで、
開きが良くなるのではと、濱崎氏からアイデアを
いただき、数回のテスト後に、束見本作成へ。
最初の見本は、形にはなりつつあるものの、
背の断裁面の歪さや、背の空間が左右不均一とのご指摘。
試行錯誤する営業担当を見かねて(面白がって!)、
現場社員も改善策を提示してくれ、アイデアが集まります。
何度も試作を繰り返した表紙加工では、
末岡製本所様(長野市)に粘り強く
お付き合いいただきました。
そして、再度の束見本作成で、
何とか8割方の問題点を解消。いよいよ本番です。
束見本で解消しきれなかった不安要素は、
製本現場の技術社員と課題を共有し、
本番作業の中で微調整しながら、
無事に仕上げることができました。
「いい本ができました。ありがとうございました。」
濱崎氏からのお電話をいただいて、
やっと、少し力が抜けました。
本づくりには、様々な工程があり、
多くの方の協力なくして成り立たちません。
今回に限らず、表には出ない各所で、
いつもファインプレーをしてくださる方々に、
心より感謝申し上げます。
誠にありがとうございました。