いつの間にか、父親の背中を追いかけていた
以前は、製本とは全く違う分野の職場に勤め、責任ある役割を任されていましたが、夜間勤務が多く、体力的にも大変でした。将来を考え、日勤の仕事を探し始めた時、友人が勤めている渋谷文泉閣のことを思い出しました。話を聞いているうちに、「製本」という仕事について興味が湧き、中途採用に応募しました。
今思えば、製本に興味を持ったのは、父親の影響もあったような気がします。子どもの頃、父が印刷会社に勤めていた時期があり、とても楽しそうに仕事の話をしていたのを覚えています。偶然にも、同じように「本づくり」に携わる仕事に就けたことは、いつの間にか父親の背中を追いかけていた、ということなのかもしれません。
そしてもう一つ、製本に興味を持ったきっかけがあります。それは、本が「木」を原料とする「紙」からできているということ。昔からキャンプやアウトドアが好きで、自然に触れることが好きでした。親しみのある「木」が原料となって紙ができ、本ができる。そう考えたら、本がグッと身近に思えてきたのです。
今、我が家には薪ストーブがあり、知り合いの山でもらってきた木で薪を作ることが、休日の楽しみです。山や森を守るためには間伐が必要で、木を使うことも大切です。もしかしたら製本は、環境問題を考える身近な仕事なのかもしれない、と薪を割りながら考えています。
「どうしたらいいか?」考えることが好き
本社工場からスタートし、今は柳原工場で主任を務めています。オペレーターを任されるようになった当初は、前任者から機械を引き継いでもすぐには、思うように動かせませんでした。機械にも“クセ”があり、使っている人に馴染んでいるからです。だから、自分に慣れてもらうよう、毎日機械をきれいに手入れし、メンテナンスを怠らず、触っていくことを続けました。すると機械も少しずつ馴染み始め、自分の思うような仕事をしてくれるようになりました。機械を扱うことが、こんなに楽しいとは思ってもみませんでした。
最近は、美術展図録や作品集など、凝った装幀の本を依頼されることが多くなりました。スピンの3本入れなど、技術者側からすると、頭を悩ますような仕様も多いのですが、ご希望の本に仕上げられるよう、考えて、考えて、そして、とにかくやってみます。何度も試して、きれいに仕上がった時には、とても達成感があります。試してみなければ、うまくいく方法も見えてきません。試行錯誤の繰り返しですが、それでもめげずに、常に「どうしたらいいか?」を考えることが好きです。
後輩が働きやすい職場づくりを
入社してから今までに、10以上の部署を経験してきました。製本には様々な工程がありますが、これだけ多くの工程を経験している人は、社内でもあまりいないと思います。だからでしょうか、同僚や後輩から悩み
を相談されることが多くあります。話を聴くことが好きなので、しっかりと向き合い、一緒に考えています。これからを担う若手が、楽しく、働きやすい、と思える職場づくりを目指していきたいです。
また、蓄積してきた「技術をどう伝えていくか」についても、常に考えています。今まで経験してきたトラブル事例や得られた知見をまとめ、未来へ技術をつなげる仕組みを考えていければと思います。
日々の中で大切にしているのは、「挨拶」「コミュニケーション」「お礼」。みんなが働きやすい職場づくり、気持ちのゆとりを持つために、いつも考えて行動しています。